7月4日に生まれて

最近『トップガン』、『アイズ・ワイド・シャット』ときてこれ。トム・クルーズをよく観る気がする。
余談だけど、僕が物心ついて「トム・クルーズ」という俳優が世の中にいるということを認識したのが『ミッション・インポッシブル』一作目公開と同時だった。なのでトム・クルーズ自体のデビューもそのころだと勝手に思い込んでいた時期があったんだけどふつーに生まれる前から活躍していたというのを後に知りショックを受けた記憶がある。

あれ、なんか違う…?


何ヶ月か前に同じオリバー・ストーンの『プラトーン』をみたんだけど、こっちは名作と名高い(高校の歴史資料集にものってた)割にあまりおもしろいと思わなかった。今ではどんな映画だったか思い出せないくらい。
なのでこの『7月4日に生まれて』も楽しめるかどうか心配していたんだけど、、。これは面白かった。

  
まずストーリーの構成がベタによくできている。
アメリカの田舎町で「愛国的」な一家に育った主人公は、子供の頃から祖国のために尽くして当然というイデオロギーを刷り込まれている。そして高校卒業と同時に海兵隊に志願しはるか遠いベトナムでアメリカのために戦おうとする。

念願かなってベトナムに派遣された主人公だったが、ある任務の途中で誤って子供を含む民間人を殺害してしまう。その事実を目の当たりにして動揺していると今度は本当に北ベトナム軍に襲撃される。
追ってくる敵を撃ちながら退却していくが、そのなかでなんと自分の部下を敵と誤認して射殺してしまう。さらに本人も撃たれ、二度と歩けない体に…。

その後地獄のような病院生活を経て故郷にもどった主人公であったが、彼に向けられる視線は祖国のために戦った英雄に向けられるそれではなかった…。
逃げるようにメキシコに行き、そこで堕落した生活を送っていたわけだが、過去自分がおかした過ち(民間人や味方を殺したこと)の記憶からは逃れられない。

その呪縛と決別するためか、自分がかつて誤射で殺してしまった部下の両親のもとを訪れる。それをきっかけに主人公は自分には何ができるかを見つけ、自分の見た真実を語ることで反戦運動に身を投じていく…。

すこし出来過ぎなくらいきれいに物語のステージができている。

この映画の何が面白かったのか。それはベトナムに行く前、主人公が育った環境の描写が占める部分が大きい。
現在のマイブームである「性的規範の再生産」という視点から見るとおもしろい。

父親も第2次大戦で従軍したことを誇りに思っているフシがあるけれども、それ以上に強烈なのが母親だ。自分では何も考えていない、おしゃべり機能付き人形のような存在だ。
「女は何も考えずに男に従っているのが良い」という保守的な性的規範のもとで育つとこういう母親になってしまうのか、という感じ。

そして主人公が高校の仲間たちとする会話の中には「本物の男」というキーワードが現れる。大学で経営学を学んでビジネスを起こすのは「自分のことしか考えていない軟弱なホモ野郎」のすることであり、本物の男は祖国のために命を差し出さなくてはいけないのだ。

結構レビューをみると「自分から志願しといて、いざ怪我したら弱音を言うばかりで主人公に共感できない」みたいなレビューが多い。しかし後先考えずに海兵隊に志願させてしまう社会の構造が描かれているところがいいところなんじゃないかなぁ、と思う。

プラトーンでは「ベトナム戦争の悲惨さ」みたいなのを描くだけであって「じゃあそんな誰もやりたくないことをなんでやってるの?」という疑問が残される。
7月4日に生まれてでは、その悲惨な戦争をみんなが望んでいる、そして望むように仕向けられている、という部分を描いている点がよかった。